作品ステイトメント

稲を貼る理由(わけ)、『HIGASHI-TA・西風の視たもの・4つの四ツ葉』のこと

私の作品には2000年頃から稲穂や稲藁、籾が頻繁に画面に登場している。『HIGASHI-TA』シリーズという作品群である。HIGASHI-TAとは東田のことで、私の住むS市郊外にある利根川の河床地を開田した田園地区をさす。かつて、私の生家がここで米作りを営んでいたが、98年の秋、諸般の事情で終止符を打つこととなり、この≪出来事≫を記憶に留めたいと考え,刈田に落ちていた稲穂や稲藁を形見として画布に封じ込めた。その作品は泥田を想起させる黒や黄土、褐色の色面に、種子や稲茎を蜜蝋で封じ込めたもので<形見、感傷、記録>志向が強かった。私が稲を用いるのはこのことが最初にあり、試作を重ねるうちに稲穂や稲藁といった素材の持つ温もり、心地よさが少年時代の体験とも相まってモチベーションを高めていったと思う。ある人に『それは稲へのオマージュですね。』と言われたが、なるほど言われてみればそうかもしれない。私が稲を用いるのはこのためであり、同時に絵画の<表面>を意識してのことである。稲穂や稲藁、籾を支持体上に置くことで、背後をより強調させ、絵画に<表面>という<膜>が在ることを観る側に意識させたいという目論見がそこにある。

その画面に微かに分かるほどの図像が痕跡として描かれ、さらに具体的な事物が現れ始めたのが、2005年からの『目の端の白―西風の視たもの』のシリーズである。描かれているものは身近な風景ばかりであるが、近年、自宅周辺の田園風景も大きく変貌しつつある。突如現れた温泉施設、魚の棲めぬ河川、バイパス道路、消えてゆく水田。『眼の端の白―東方より』には道路改良工事のためのボックスカルバートが中央に大きく描かれている。バイパス道の建設のために突如眼前に現れたこの異形のモチーフを、変貌する光景の一場面として描いた。私は日頃、絵画のためのキャンバス(画布)は作家の眼、作家の意思が映し出された鏡であると考えている。『眼の端の白』とは、キャンバスに残された<白>の痕跡を意味している。

また、2008年頃からの『4つの四ツ葉』シリーズでは東田地区の畔に植生しているクローバー(シロツメクサ)を現地で採取して作品化したものである。キャンバスの画面上にクローバーを蜜蝋で封じ込め、幾つものクローバーの中から4枚の四つ葉を探し出すといった、観る者が楽しめる作品に仕立てたつもりである。私は、これからも「HIGASHI-TA-東田」をテーマの柱にして平面や立体の制作に挑んで行きたいと考えている。

2016年 2月   高橋芳文